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不貞行為の慰謝料請求に時効はある?起算点はいつから?請求可能な期間とは

投稿日: 更新日: 弁護士 宮地 政和
不貞行為の慰謝料請求に時効はある?起算点はいつから?請求可能な期間とは
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配偶者の不貞行為を発見したものの、その当時は精神的なダメージが大きくてすぐには慰謝料を請求する気にもなれなかったり、いずれは不貞行為について責任をとらせるために慰謝料を請求しようとは思っているものの、日々の多忙等で具体的な行動に移すことができずに時間が経ってしまっていたりというケースは多いところです。

しかし、不貞行為の慰謝料請求には時効があり、いつまでも請求できるものではありません。

そこで、この記事では、不貞行為の慰謝料を請求する権利の時効がいつから進み始め、いつ完成するか等について詳しく解説していきます。

不貞行為における時効とは

不貞行為における時効とは

不貞行為とは、典型的には配偶者が他の異性との肉体関係を持つことを言います。

配偶者の不貞行為を発見してしまった場合、言葉にならない程の怒りや絶望感等の精神的苦痛が生じることが一般的です。

そして、その精神的苦痛を完全に癒すことは事実上不可能ではありますが、せめてもの救済として、法は、不貞行為を行った者に対して慰謝料を請求する権利を認めています。

しかし、この権利もいつまでも存在するものではなく、法で定められた期間が経過するともはや時効によって慰謝料を請求することができなくなる可能性があります。

そして、不貞行為の慰謝料請求について、民法は以下のように定めています。

第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。

ー 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
不法行為の時から20年間行使しないとき。

つまり、不貞行為を原因に慰謝料を請求する場合、その法的な根拠としては民法上の「不法行為」にあるところ、上記のように3年または20年行使しないときは権利が時効によって消滅することとなります。

以下でより詳しくご説明します。

主観的な基準に基づく不貞行為の時効は、損害及び加害者を知った時から3年

主観的な基準に基づく不貞行為の時効は、損害及び加害者を知った時から3年

不貞行為があった場合において不貞相手や配偶者に対して慰謝料を請求する場合、主に以下の2つのパターンが考えられ、それぞれ時効の起算点が異なるため注意が必要です。

1. 不貞行為を知ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料

不貞行為があった場合、不貞行為を行った配偶者やその不貞相手に対しては、不貞行為があったことを知ったことによる精神的苦痛を被ったことを理由として慰謝料を請求することができます。

この場合、時効に関しては、「損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき」(民法第724条第1号)に該当するか否かがポイントになります。

ここで、「損害及び加害者を知った時」とは具体的には何を指すのでしょうか?

この点について、裁判所は、「加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な程度の状況のもとに、その可能な程度にこれを知ったときを意味するものと解するのが相当である」と判示しています(最判平成14年1月29日)。
そして、これは、具体的には被害者が加害者の住所氏名を知った時点であると判断した裁判例もあります(東京地裁平成24年6月19日)。

従って、配偶者が不貞行為をしていることを知っていただけでは時効は進まず、大まかにいえば、どこの誰と不貞行為を行ったのかが分かった時点から3年間経って初めて時効の効果が生じることとなります。

2. 不貞行為により夫婦が離婚したことによる慰謝料

上記で説明させていただいた、①不貞行為を知ったことによる精神的苦痛に対する慰謝料とは別に、②不貞行為により夫婦が離婚したことによる慰謝料という概念もあります。

これは、不貞行為があったことそのものではなく、その結果離婚に至ったことによる慰謝料であり、①とは法的には異なる性質のものです。

そして、この②離婚の慰謝料の起算点は、離婚成立時から3年間です。

そのため、①の慰謝料については時効期間が経過していたとしても、②についてはまだ時効が完成していない可能性があります。

ただし、②離婚の慰謝料を請求できるのは、あくまでも配偶者に対してであって、特段の事情がない限り、配偶者の不貞相手に対しては請求することはできないので注意が必要です(最判平成31年2月19日)。

 

 

客観的な基準に基づく不貞行為の時効は、不貞行為の時から20年

客観的な基準に基づく不貞行為の時効は、不貞行為の時から20年

不貞行為の慰謝料請求に関しては、「損害及び加害者を知った時から3年間」という時効期間の他に、「不法行為の時から20年間」という時効期間もあります。

なお、やや専門的な話ですが、この20年という期間については、2020年に民法が改正される前の段階では、「時効」ではなく「除斥期間」と解釈されていたため、インターネット等の古い記事では、この20年を「除斥期間」であると説明しているものもありますので注意が必要です。

「除斥期間」は、「時効」とは違い、後述するような更新や完成の猶予ができない(期間の延長が認められない)ものだったため、この民法改正によって、以前よりも慰謝料が請求できる可能性が広がったといえます。

さて、この20年間という期間については、単に「不法行為の時から」とされているため、不貞行為の存在等を認識していたか否かに関わらず、実際に不貞行為があった時から20年を経過すると時効が完成することとなります。

例えば、過去に配偶者の不貞行為を発見したものの、その不貞行為の相手が分からずに時間が経過しているというケースを想定しましょう。
この場合、不貞行為の相手がどこの誰なのかを把握するまでは「損害及び加害者を知った時から3年間」という時効期間は進行しません。

もっとも、「不法行為の時から20年間」が経過すると、その後に不貞行為の相手が分かったとしても、時効完成により慰謝料の請求はできない可能性があることとなります。

このように、時効期間には「不法行為の時から20年間」という客観的な基準も設けられている点には注意が必要です。

以上を図にまとめると、以下のようになります。

不貞慰謝料の時効期間

時効間近で慰謝料を請求する場合の注意点

時効間近で慰謝料を請求する場合の注意点

時効間近で慰謝料を請求する場合、時効を理由に慰謝料をとることができないという事態を回避することが最も重要です。

そこで、この記事でご説明させていただいた不貞行為の慰謝料の時効に関するルールを踏まえて、以下の点に注意して対応するようにしてください。

1. 時効の起算点を正確に確認する

まず、既にご説明させていただいたことを踏まえて、時効の起算点となる時期を正確に確認する必要があります。

この起算点をめぐっては、相手方と争いになる可能性もあるところであり、そうなった場合、起算点に関するこちらの主張を裏付ける証拠としてどういったものがあるか等によって起算点をどの時点と考えるべきかが変わってくる可能性もあります。

こうした判断には専門的な知識が必要となりますので、早い段階で弁護士に具体的な事情等を共有した上で相談した方が良いです。

2. 時効完成前に慰謝料を請求する

時効間近で慰謝料を請求する場合、こちらからの請求等が時効の完成前に相手方に到達する必要があります。

例えば、書面を郵送する形で請求をするのであれば、後述のように内容証明郵便で時効の完成前に相手方に到着するように書面を送る必要があるため、書面の作成や発送の準備をしていたら時効の完成に間に合わなかったということがないように十分注意して下さい。

また、書面を送る方法では間に合わない等の事情があれば、まずは相手方に電話をかけて慰謝料の支払いを認めさせた上で、それを録音しておくという方法も応急措置としては考えられます。

不貞行為の時効は止められる

不貞行為の時効は止められる

不貞行為の慰謝料請求の時効期間の経過を止める方法がありますのでご説明します。

なお、ここでも2020年の民法改正による変更点がありました。すなわち、改正前の民法では、時効の「停止」と「中断」という言葉がありましたが、この言葉の意味するところが分かりにくいということ等から、「停止」や「中断」という言葉ではなく、時効の「完成猶予」(一定の時点まで時効が完成しないようにすること)や「更新」(新しく時効が進行すること)と言葉を使うようになりました。

この点についても、民法改正前の古い情報には注意が必要です。

1. 内容証明郵便を送付する

「内容証明郵便」とは、いつどのような内容の書面を送ったのかが記録に残る郵便局のサービスの一種です。

このサービスを使って相手方に書面を送ることで、いつ相手方に慰謝料を請求したか記録に残すことができます。

このように書面を送って慰謝料を請求することによって、慰謝料を請求した時から6か月が経過するまでの間は、時効の完成が猶予されます(催告による時効の完成猶予、民法第150条)。

ただし、これは時効の完成を一時的に6か月間止めているだけなので、この6か月以内に解決しない場合には訴訟を提起する等の対応が必要になることには注意が必要です。

また、内容証明郵便等によって慰謝料の請求を行うこと自体は何回でもできますが、時効の完成猶予が認められるのは初回だけであり、何回も内容証明郵便を送ることでその都度時効の完成猶予をすることはできないのでこの点にも注意が必要です。

2. 協議を行う旨の合意をする

2020年の民法改正によって、協議を行う旨の合意による時効の完成猶予という制度ができました。
これは、権利について協議を行う旨の合意が書面でされたときは、以下のいずれか早い時までは時効は完成しないとするものです(民法151条第1号~第3号)。

①その合意があった時から1年を経過した時
②その合意において当事者が協議を行う期間(1年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時
③当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から6箇月を経過した時

3. 裁判で請求

時効が完成する前に裁判所に訴訟提起や調停の申し立てをした場合、その裁判や調停が終わるまでは時効は完成しません

また、裁判の結果、判決等で権利が確定した場合は時効が更新(時効期間がリセット)され、その時点から新たに時効期間が進行することになります(民法第147条)。

なお、このように確定した権利の時効期間は10年間とされています(民法第169条第1項)。

4. 債務の承認

不貞行為の慰謝料を支払う義務を負うものが慰謝料の支払義務を認めた場合(権利の承認)、時効の更新事由となり、時効期間がリセットされ、債務を承認した時点から新たに時効期間が進行することになります(民法第152条)。

この承認の方法については特に決まりはないのですが、時効の完成によって慰謝料の請求ができるか否かを分ける重要なポイントになるものなので、権利の承認があったことを証拠として残すために、例えば、相手方に慰謝料の支払いに関する書面に署名させる等の対応が望ましいところです。

また、書面で残すことが難しい場合でも、相手方が慰謝料の支払義務を認めた音声を録音する等して証拠の保全に努めてください。

この権利の承認については、時効完成後であっても有効です。

というのも、時効が完成した後であっても、相手方に対して慰謝料を請求してみて、相手方が権利を承認すればそこで時効が更新され、以後は改めて時効期間が経過するまでの間、相手方は時効の完成を理由に慰謝料の支払いを拒否することができなくなります。

さらに、この権利の承認を行うにあたっては、時効が完成していることを相手方が認識している必要はないため、一度相手方が権利の承認をした以上、相手方としては、後から「時効が完成していたことを知っていたならば権利の承認をしなかったので権利の承認は無効だ。」といった反論はできないことになります。

5. 強制執行、仮処分、仮差押

相手方が慰謝料を支払うことに合意している場合や、慰謝料を支払えという判決が出ている場合においても相手方が慰謝料の支払いをしない状況が続いて時効が完成しそうな場合は、相手方の財産に対して強制執行や仮処分、仮差押という手続きをとることで時効の更新や完成猶予の効果を得ることができます。

強制執行の場合、その手続きが終了した時から時効が新たに進行することになります(民法第148条)。

仮処分、仮差押の場合には、その手続きが終了した時から6か月を経過するまでの間は時効が完成しないことになります(民法第149条)。

不貞行為の時効については弁護士に相談しよう

不貞行為の時効が問題になるようなケースでは、具体的な事情によって、いつを時効の起算点と判断すべきか等、専門的な知識がないと判断が難しいことも多いところです。

また、時効の完成猶予等の対応を自分で行う場合、うまく完成猶予ができないケースや、債務の承認に関して相手方とのトラブルになるケースがあり、結果的に時効が完成してしまい、慰謝料を受け取ることができないおそれもあります。

加えて、後述の通り、時効期間経過後であってもうまく交渉等していけば慰謝料を受け取ることができる可能性もあります。

そこで、不貞行為の時効の問題については、専門家である弁護士に早期に相談し、対応を依頼することをおすすめします。

時効経過後に不貞行為の慰謝料を受け取れるケース

時効経過後に不貞行為の慰謝料を受け取れるケース

時効期間が経過した後であっても、慰謝料を受け取ることができるケースもあります。

時効という制度は、慰謝料の支払義務を負う者が、時効によって支払義務が消滅しているので支払わないという意思表示(時効の援用)をして初めて効果が生じるものであり、時効期間の経過によって慰謝料を請求する権利が自動的に消滅するというものではありません。

そのため、時効期間が経過した後であっても、相手方に慰謝料の支払いを求めて、相手が時効の援用をせずに慰謝料の支払義務を認めたり(権利の承認)、任意に慰謝料を支払ってくれたりするケースでは慰謝料を受け取ることができます

不貞行為の時効に関するよくある質問

不貞行為の時効に関するよくある質問

1. 時効完成前であれば慰謝料はいつ請求しても問題ないか?

時効完成前であれば、慰謝料を請求するタイミングの問題で法的にその請求が認められないという事態は想定し難いところです。

他方で、例えば、不貞行為の発覚から1~2年が経過した後に慰謝料を請求するようなケースでは、時間の経過によって当事者の記憶が薄れたり、不貞行為の証拠がなくなったりすることで慰謝料の請求が難しくなるおそれがあります。

また、不貞行為に関するトラブルがある程度落ち着いて時間が経ってから慰謝料を請求した場合、事案によっては慰謝料が減額される可能性もあります。

さらに、時間が経つと、人は自らの過ちや反省の気持ちを忘れてしまいやすく、これによって適切な慰謝料の支払いを任意で求めることが難しくなり、解決までに裁判を経る等しなければならなくなり、紛争が長期化してしまうおそれもあります。

そのため、やはり慰謝料の請求は早期に行った方が望ましいところです。

2. 時効の完成が近いのに相手が内容証明郵便を受け取らない場合どうしたら良いか?

この記事でご説明させていただいた通り、時効の完成が近い状況であれば、取り急ぎ時効の完成猶予等のための対応をする必要があります。

その対応として、内容証明郵便を送る方法が容易かつ一般的な方法ですが、これを相手方が受け取らないケースも想定されます。

その場合、時効が完成してしまうか否かについては、相手方が受け取らないケースでも具体的な事情によって時効の完成猶予を認めた裁判例もあるため、弁護士に是非ご相談ください。

自分が不貞行為を行ってしまったときは・・・

ここまでは、不貞行為をされた側が慰謝料を請求する場合を中心に解説してきましたが、逆に慰謝料を請求される側の場合には、時効が完成していないか否かを確認すると共に、完成している可能性がある場合には、時効の更新等に該当する行動をとらないことが重要となります。

東京スタートアップ法律事務所では、慰謝料を請求される側の方からのご相談も数多くいただいておりますので、以下のページ等をご参照いただき、悩まれている方は是非ご相談下さい。

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まとめ

この記事では、不貞行為に基づく慰謝料請求の時効について解説してきました。

不貞行為があったことで大きな精神的苦痛を被った場合、その心の傷を少しでも相手に理解させ、相応の反省と誠意を示させるために法律が認めているものは、慰謝料を請求する権利しかありません。

しかし、時効が完成してしまうと、その権利の実現すらできなくなるおそれがあります。

不貞行為により精神的苦痛を被った場合、なるべく早くその権利を実現しておくことも必要となりますので、まずは是非弁護士に相談してみて下さい。

東京スタートアップ法律事務所では、不貞行為の慰謝料に関する経験豊富な弁護士が、あなたからのご連絡をお待ちしております。

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宮地 政和
執筆者 弁護士宮地 政和 第二東京弁護士会 登録番号48945
人生で弁護士に相談するような機会は少なく、精神的にも相当な負担を抱えておられる状況だと思います。そういった方々が少しでも早期に負担を軽くできるよう、ご相談者様の立場に立って丁寧にサポートさせていただきます。
得意分野
企業法務・コンプライアンス関連、クレジットやリース取引、特定商取引に関するトラブルなど
プロフィール
岡山大学法学部 卒業
明治大学法科大学院 修了
弁護士登録
都内の法律事務所に所属
大手信販会社にて社内弁護士として執務
大手金融機関にて社内弁護士として執務
書籍・論文
『スタートアップの法務ガイド』中央経済社
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